2012年1月13日


C★NOVELS
日米開戦の跫音が聞こえる中、山本五十六連合艦隊長官はふたりの少壮佐官をドイツ第三帝国へと送り込んだ。二年後、日本軍は真珠湾の米軍を攻撃するが......!? 架空戦記巨篇登場!
カバー:上田信
刊行日:2008/10/25
新書判/248ページ/定価945円(本体900円)
ISBN4-12-501053-6 C0293
戦史には、平均的戦史像と呼ばれるものがある。
たとえばミッドウェーなら、運命の五分間に代表される定説、第一次ソロモン海戦の輸送船攻撃問題。これがなければ勝てた。仮にこうなっていれば、別の結果が出ていた、等々である。
今回のシリーズでは、『ドイツ製兵器が大量に日本に渡っていたらどうなっていたか?』という、ある意味定番のそれに挑んだ。とはいえ、素でこれを組んでもある意味平淡になる。そこで思考実験とドラマ性の両立を考えていったら、思わぬところからとんでもない状況を組むことになった。
それが真珠湾攻撃であり、源田実となってしまったのは、正直自分でも驚いている。
ネタバレになるので詳しく説明するのは避けるが、戦史の裏には常に虚像が潜んでいる。たとえば、日本では『人望の厚いドイツ海軍名指揮官』とされる人物が、ドイツ軍事史研究局の研究や優れた調査報道により、まったく別の顔が浮き上がっている。こうなった理由は、戦時中に展開された様々なアリバイ工作が大きいらしい。
組織の名誉を護るため、個人の保身のため、あるいはもっと大きな戦略視点から展開された様々な隠蔽工作が、真実の姿を遠ざけ、虚像と伝説を世間に広めた。
航空甲参謀源田実という人物もまたその例に漏れぬのは、二一世紀以後の様々な調査から次第に明らかにされつつある。これは、関係者たちの物故と一九五五年体制に代表される冷戦構造の終結が大きい。ソ連という共産主義国家が近隣に存在した当時においては、帝国海軍は善玉で、一切の罪悪は帝国陸軍がしょいこむ必要があった。だからこそ、世に出る書籍において源田実は英雄であり、極端な部分ではマンガ『紫電改のタカ』に、若い兵たちに理解を示す名指揮官、として颯爽と登場する必然があった。
が、時代は変わった。新・冷戦が始まるという話はあるが、五五年体制が実質崩壊した現在こそ『過去の歴史と人物に対する再評価』が可能になった時期といえる。その黄金の機会を逃さず、定番に近いドイツ兵器ネタと歴史人物像の再評価を交差させた本作品をどうか楽しんで欲しい。
また、源田実という造られた英雄の陰で、これまで無念の涙を呑んで耐えて来た無数の戦死者たちの悔しさ、辛さをほんの一瞬でも想起し、彼らの冥福を祈っていただけたら本当に幸いである。
〔三木原慧一/2008年10月〕