2010年8月24日


女帝:着任一年目、新しく書籍編集部長になりました。
生神:全体のバランスにこだわる前部長。スポーツ好き。
編長:構成が気になるミスターきっちり。C★NOVELSの編集長です。
軍曹:ファンタジアの鬼軍曹。コーヒー片手に、ズバリ言います。
番長:影の支配者。なんでも読む乱読派。
殿下:元バックパッカー。男気と骨のある奴どんと来い!
広報:ゲーム好きコレクター、主食は駄菓子。外し目に惹かれるなー。
特攻:キャラ命。今、恋愛小説がキてます。もちろんBLもアリっ!
庭番:左党で砂糖もいけるクチ。萌えより燃え、の少年漫画脳。
娘娘:児童小説好きの新人です。アニメも好き。
| 編長 | 第5回C★NOVELS大賞にたくさんのご応募ありがとうございました。今回の応募総数は、過去最高の254本。一次選考で74本に絞られ、二次選考で10本が選ばれたのはサイトでもお伝えしてきたとおりです。 |
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| 庭番 | そして今年もいよいよ最終選考。以下、C★NOVELS編集部の編集部員による座談会形式で、全作品を合評しながら選考を進めていきます! |
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| 庭番 | まずは、秋元晴巳『鋼鉄天女』。記憶喪失から目覚めた少女は、国家機関に属する「統制者」として社会の排除対象「被統制者」と戦う使命を帯びていて――という物語。 |
| 女帝 | 最初に読んだときは「勢いがあっていいな」と思った。よくよく読むと、設定の強引さが気になるかもしれないわね。 |
| 編長 | 「統制者とはどんな存在か」が物語を覆い尽くせていない。導入部も読みづらかったし、日本全国に戦闘隔離区域を作っておきながら、なぜ統制者が未成年の2人だけなのか? なぜ武器が銃なのか? などがわからない。 |
| 庭番 | 重要任務の記憶を失った主人公が、生の実感がない空虚な気持ちと、体にしみついたバトルの快感に戸惑う様子などは、よく書けてるなと思いましたよ。もっと手ごわい被統制者が出てきてもよかったのに。 |
| 軍曹 | それにしても、昨年、イメージが共通する設定で、映画化までした大ヒット作があるのに、この考察では浅すぎるな。たしかに少女の葛藤は描けているけど、それゆえに全体の物語が地味になってしまった感もある。 |
| 広報 | 後半になって、突然キャラクターの「属性」までひっくり返しちゃうのは反則だろう! とか、言いたいことはいろいろありますよね......でも、あらすじを読み返さないとこんがらがる応募作が多いなか、キャラクターはよく書き分けられていたと思います。 |
| 庭番 | では、矢口丞『Under The World ?上善如水?』へ。かつて中国の呪術師の里で暮らしていた青年が、商社の新米社員として再訪し、ダムを巡る事件に巻き込まれる......。 |
| 特攻 | 主人公の男の子がかわいい! 彼のかわいらしさがもっとうまく出ていたら、すごく好きなタイプのお話です。でも、他のキャラクターは中途半端。もうちょっとキャラがイチャイチャしてくれたらトキメキがあるのに(笑)。 |
| 女帝 | 現代の日常で始まる冒頭は、あらかじめ架空の世界を前提に始まる物語と違って身構えずに読めるからいいわね。リアルな25歳の男の子像、私もかわいいと思った。 |
| 庭番 | 私はダメ上司が好きだなー。呪術師同士のバトルが始まるなか、一人だけ最後までまったく使い物にならない「普通以下」のオッサンで、ズッコケましたよ(笑)。ダムの水底に潜む黒い繭の、生理的な気持ち悪さも印象に残りました。 |
| 殿下 | 「C★NOVELS初のビジネスファンタジー、なるか!?」と期待したけれど、構成がガタガタ。黒幕の最終目的は何だったのか、など大枠の部分に説得力がない。 |
| 娘娘 | 中国茶の描写がとても丁寧で、これを伏線にファンタジーがふくらんでいくのかと思いきや、後半さっぱり出てこない......ただの薀蓄で終わったのには非常にガッカリしました。 |
| 軍曹 | 現実にファンタジーを融合する場合は、二つの世界の間(あわい)の部分、際(きわ)を綺麗に書かないと、物語に入り込めない。新人君の出張奮闘記から、湖底に龍が棲む不思議の世界へいきなりワープしちゃって、せっかく用意した舞台装置を活かせていないのが残念至極。 |
| 編長 | 海外出張、茶葉の薀蓄、隠れ里での訓練、幼少期のトラウマ、エピソードはあっても話が一本につながらないのが惜しい。ただ、少年少女の成長を描く応募作が多いなか、「今時の若者の成長しなさっぷり」を描いたのは目新しいとも言えるね。 |
| 庭番 | 次は好田光希『ヘルガを探せ』。タイトルどおり、戦火の中、父親の命令を受けてしぶしぶ婚約者ヘルガを探しに行く男の物語です。 |
| 女帝 | 大風呂敷を広げた割に、結局、何が言いたかったの? と疑問が残ってしまう。どこか借り物っぽい感じがして、書き手が登場人物を魅力的だと思って書いている様子が、こちらに伝わってこないのよね。 |
| 番長 | このエンディングをハッピーエンドでよしとするのか、あり得ない甘さとするかで、評価が分かれそうですよね。正直、私も肩すかしですが。 |
| 広報 | 話が面白くても、女好きの主人公を生理的に受け付けない、という読者も多いと思う。ダメ男はダメ男なりに、もうちょっと愛すべき、憎めない男として書けなかったですかね。 |
| 編長 | そう、身ぐるみ剥がれて傭兵となる弱小貴族のおぼっちゃんに、読者が共感しづらい。悪魔的な中隊長に振り回されちゃう話にするとか、物語が同じでも別に方法があったと思う。 |
| 軍曹 | 灯台下暗しでヘルガの正体に気づかない主人公に「なんでわかんないの!?」とツッコミながら読む、そんな楽しい作りにもできたはずなのにね。最終選考に残る水準ではあるけれど、次は、読者層をどこに置くかも考えてみてほしい。 |
| 生神 | ストーリーとは関係ないけど、地の文がやけに多いな。それが気になるということは、どこかリズムが悪い、文章に読みにくさがあるということだよね。 |
| 編長 | 逆に、カギカッコばかりで小説というよりシナリオみたいな応募作も多いなか、地の文がちゃんと書けていると評価できる面もある。賛否が分かれるだろうが、一冊分、この先どうなるのかハラハラしながら読ませる点は買いだね。 |
| 庭番 | では海棠祐『センチュリオン』です。古代ローマを彷彿とさせる世界で、兄弟同然の従者に裏切られた百人隊長が、奴隷に身を落とし、さまざまな死線を乗り越えて帰還するまでの物語。 |
| 特攻 | 主人公を情け容赦なく艱難辛苦に陥れていくところは、今の他の作家にはないものを感じる。やっぱりみんな手心を加えてしまうので、キャラを突き放して書く感じは、得がたい才能だと思います。悲惨なストーリーの中にも独特の明るさがありますね。 |
| 広報 | いったん没落した人が実力でのしあがっていく話は大好きなので、楽しく読めました。不幸にめげず、やけにポジティブな「突き抜けたバカ」の主人公の隣に、もう少し賢い人を配置すればよかったかな。 |
| 女帝 | 殺人を犯してまで家督を乗っ取った従者なのに、最後はさほど抵抗もせず、敵役にしては小物すぎる。主人公はじめ、「こんな目に遭ったらさすがにもう少し考えて別の行動とるでしょ......」と言いたくなる場面が多いわね。 |
| 編長 | 何が起きても平気で乗り越える強さ、能天気な明るさを持った主人公はいいが、周りが全員そういう性格だと、主人公のたくましさが光らないんだね。陰湿な裏切りなど、影の部分も色濃く書いてほしかった。失ったものを少しずつ女神の加護で返してもらう、という話の筋は面白い。 |
| 軍曹 | 波瀾万丈をたっぷりつめこんでおきながら、規定枚数に収まるのは、細部が甘いからではないか? 表面だけつるっと撫でて、読ませどころ、力の入れどころを間違えている感じ。プロローグに軍団兵を出しておきながら本章は全然違う話から始まるとか......。 |
| 番長 | たしかに、お約束の連続って気もする......でも、仮面の女将軍には惚れましたッ! |
| 殿下 | 昨年の最終選考に上がった「砂漠の薔薇」も、ナポレオン時代を背景にした印象深い作品だった。一度、骨太の歴史小説をガッツリ書いてみたら? と思わせる一貫性がある。 |
| 生神 | ファンタジアだからといって、必ずしも魔法や妖術が絡まなくてもいいのだけど、そうした仕掛けを越える「何か」がほしかったですね。最終的に読者をカタルシスへ至らしめるには、まだまだ。書く力、読ませる力は確実に持っている人だから、今後に期待しています。 |
| 庭番 | 次は、清水さゆる『蛟(みずち)の璧(へき)』。宝物「蛟の璧」をめぐる盗賊たちの争いに巻き込まれた戦災孤児の少年を、さらなる陰謀が待ち受ける。こちらの舞台は架空の近世日本を彷彿とさせます。 |
| 娘娘 | 登場人物たちがこれからどうなるのかな、旅を続けて、また出会ったりするのかな、と気を持たせる感じがあって、「続き」が一番気になる作品でした。 |
| 番長 | 詰め込みすぎて駆け足になる作品が多い中で、物語のスケールと原稿の分量がうまく合っていると思う。キャラクター全員になにかしら感情移入できるのもあって、読んでいて気持ちがよい作品だった。 |
| 女帝 | まだ若い書き手なのに、大盗賊の中年男の不器用な感じなどがよく出ていて、ご都合主義的になっていないのは、高く評価したいところ。 |
| 編長 | でも、登場人物の性格や価値観の違いは、もっと書き込んでいけたのでは? 一番ひっかかったのは山賊頭の女性。年若いながらも実力のある親玉のはずが、最初の戦闘シーンではずいぶん小娘に見える。一人のキャラクターの枠におさまりきれていない。「世界」を作る力は十分に感じるので、次は「物語」を作ることに意識的になってほしい。二次選考で読んだときは有力候補だと思ったけれど、あと一歩です。 |
| 殿下 | この人は、以前から投稿してくれているんだね。安心して読める筆力を持っているけど、今回は妙にこぢんまりしちゃったかな。「養父子の絆は、宝物にも優る」というオチにするなら、人間ドラマを際立たせてほしかった。 |
| 軍曹 | 「小さな子供が何も知らないまま振り回される話」は物語のパターンの一つなので、類似作が多いんだよね。以前の投稿作に比べて、努力のあとは認められるけれども、本領発揮というには遠い感じ。もうちょっと頑張ってみてほしい。 |
| 特攻 | 全体がうまく形になっているにもかかわらず、散漫。読者を集中させる「見せ場」が作りきれていない。ライトノベル路線で書きたいのか、キャラクターに依らない児童文学などで書いていきたいのか。書き手自身がその結論を下す、分かれ目の作品なのかなと感じました。 |
| 生神 | 地の文と会話文とモノローグ、三つのバランスがずいぶん気になってしまった。人物の生い立ちや性格、行動の理由まで、重要なことの説明をすべて「喋らせて」片付けようとするクセがある。 |
| 広報 | 主人公と行動を共にする馳影(「蜥」というトカゲのような生物)を、もっと愛らしく書いてほしかった! 実は生まれつき○○で......という設定も、そうとわかったときに「うい奴め?!」と読者をうならせる要素になったはず。動物好きとして、次作以降も個性的なイキモノの登場を期待してます(笑)。 |
| 庭番 | では続いて、今葷倍正弥『軍師の記録』。祖国を捨てた天才軍師が、旅先の小国で領主の妹姫の恩人となり、やがて戦に巻き込まれ、最小の犠牲で敵軍勢を追い払う。これは番長からどうぞ。 |
| 番長 | 今年一番気に入ったのはこれだ?! 偏愛賞を贈呈したい!! 朴念仁の軍師と、妹キャラのおてんば姫。優等生のお兄ちゃん領主やじいやとか脇を固めるキャラも良いし、泣かせるシーンや台詞もあって美味しすぎる!! |
| 庭番 | そう、何度読んでも最後までぐいぐい引っ張られました。非情なはずの軍師が、天然のお姫様にズルズルほだされて国を救っちゃう。年齢も身分も違う二人の関係が、とてもいい! 私からも偏愛賞を! |
| 生神 | 起承転結、登場人物が明快。ある種の小説の基本みたいに、よくまとまっている。でも、ノベルスらしい「派手さ」のようなものが、あるようで意外となかったな。 |
| 女帝 | 剣術が苦手だとか鈍感だとか、専門以外はまったく冴えない軍師が、さほど魅力的に思えないんだけど......一度助けてもらっただけのお姫様が、こんな男に一目惚れするかしら? |
| 軍曹 | それは男のロマンでしょう!(笑) たしかに、恋愛描写はお粗末。もう少し丁寧に描き込んでほしかった。姫が孤立無援でも逃げ出さず、軍師を心から信じ続けてこそ、この物語が成立するのだから。 |
| 広報 | 中盤から、姫の軍師への想いが駆け足になっちゃうんですよね。いくらなんでもこれじゃあ命は賭けらんないだろう......と。深い愛情ではなく、単なる世間知らず、としか思えないのが弱い。 |
| 殿下 | 私は、軍師が最後に選択した結末だけで、もうアリかなと。男の書き手が男性のキャラクターを突き放して書いて、あっさり終えたのは偉い! 普通「じつは......」と理屈をこねたり、ヒロインのほうに行動させたり、クドクドやりがちなんですよ。 |
| 娘娘 | でも、それにしても、もう少しラストに盛り上がりがほしかったですよね。作中の人物たちもリアクションが薄くて、読者が一緒に結末に驚いたり嘆いたりできない感じでした。 |
| 軍曹 | 「コートの肩に花がついていた、おまえ、山を越えてきた間者だろう」と指摘する場面......これ軍師が天才なんじゃなくて、間者が間抜けなだけ(笑)。そんなもんつけたまま密入国するな! 最後まで読者を「かっこいい」と唸らせる、そんな天才軍師を書けていれば、大賞ものなんですが。 |
| 編長 | 他の連中が手をこまねいてオロオロしているところに、よそ者が現れてポンと正解を言うだけでは、貫禄がない。凡人が最大限の努力をしてなお四苦八苦する横で、さらにその上を行く策を提示できる、稀有な人物である、という凄みを伝えないと。どんでん返しが一回しかないのも、策士モノとしては物足りない。「偏愛賞」を受ける魅力はあるけれど......結末を含めて、お話がちょっと小さいかな。 |
| 特攻 | 好きな人はものすごく好きでしょうし、このパターンを再生産し続けていくのも手ですけど、ここまでベタベタに王道だと、次作以降、このネタ以外のものを書けるのか? という懸念もありますね。 |
| 庭番 | それでは、あやめゆう『ストレンジ・トーン』に移ります。周囲の人が次々と消失していく異変に気づいた主人公は、元凶である奇術師の「結界」を壊すため、魔術師を名乗る女性と手を組んで――。 |
| 軍曹 | 以前にも投稿している人で、年ごとにレベルアップしているが、今作は全応募作品の中でも上位に入る出来。C★NOVELSに足りない「男性向け現代もの」のツボも押さえていて、この尖った感覚には固定ファンの読者もつくだろう。それでもなお、積極的に推す気にはなれない。前作までの反省点だった余計な装飾を削ぎ落とし、小説としては格段に上手くなっているが、逆に、既存作品の影響やアラのほうが目立ってしまった。 |
| 番長 | 冒頭からエピローグまで、ある特定の作家を思い起こさせる描写が多すぎる。現代物なので、文体や作品の空気はある程度しょうがないとしても、モチーフまでかぶるのは危険。細かい部分でこそ手を抜かず独自性を出してほしい。既存作品の影響下にある作品は「親」を超えることはできない。 |
| 特攻 | 「閉じた世界」が流行といっても、その世界の「閉じ方」は、書き手それぞれによって違うはず。誰かの思考のトレースではなく、筆者自身が考えてキャラクターを動かすべきだと思う。ところで、一人称の高校生男子、師弟関係の女性、姿を現さない父、超常現象と異能の覚醒、人物の配置や物語が昨年までの投稿作とまったく同じですよね。 |
| 広報 | 共通のキャラも出てくるし、シリーズ物だよね、明らかに。私は、彼の作品のテンションや、ペダンチックでシニカルな作風、大好きなんです。何作か読むうち、主役格三人のトライアングルに愛着がわいてきてしまった(笑)。「ずっとトップギアでメリハリがない」という前回の反省もよく活きてる。今回は、テンションを下げたら逆に引っ込み思案になっちゃったけど、悪いところを直し、よさを伸ばしていけたら、大化けすると思います! |
| 編長 | 以前から「ある種の暴力的なテンションで、読者を拒絶している」と受賞を逃していた。今回、文章のノイジーさが減ってずいぶん読み手に届きやすくなったと思う。魔術師、奇術師、といった設定に独特の肉付けをしているのもいい。ただし、暴走する勢いが魅力でもあった前三作に比べ、初心に帰ったらオリジナリティが薄れてしまった、というのは非常に残念。 |
| 庭番 | 私は初めて読みましたけど、さすが編集部内でも「前評判」が高いだけはあるな、と。クセのある台詞回しは正直ちょっと苦手ですが、他の文体でも書けるポテンシャルを感じました。次は、老若男女が交錯する、別の作風にも挑戦してみては? |
| 女帝 | 「世界は認識で出来ている」という言葉が鍵になっていて、本当は観念的な、純文学的なテーマを書きたい人なのに、器だけアクション・ファンタジーにしているような印象がある。それを読み手に気取られてしまうのは、あんまりよくないことよね。 |
| 娘娘 | たしかに既視感は拭えないものの、現代物で日常生活の中に超常現象が起きる設定や、魔術師のキャラクターがよくて、楽しく読みました。途中まで協力者だった引きこもりが、じつは......というのも、面白かったです。 |
| 編長 | 彼に関しては、すでに今作『ストレンジ・トーン』だけの議論ではなくなっているね。「あやめゆうなら、このくらいは書けて当たり前」という安定評価が前提となっている。でも、やはり既存作品の影響は見過ごせないポイントなので、今年この作品で世に出すという結論には達しませんでした。C★NOVELS編集部一同、引き続き次回作に期待しています。 |
| 庭番 | 次の月谷日向子『En Saga ?鷲の歌?』は、「金枝篇」に描かれたスウェーデンの王とその息子にインスピレーションを得て、北欧神話の世界をもとにふくらませたという異世界もの。 |
| 女帝 | ロマンチック、かつ、甘すぎるお子様向けではなく、年齢層が高い読者にもきちんと読ませる内容になっている。でも、筆者は北欧文学を専攻した人みたいね。専門分野で勝負した「渾身の一作」という印象で、他にバラエティにとんだ作品を書いていくプロの作家になれるのかどうか。 |
| 特攻 | よくできているけど、エンターテイメント小説ではないですよね。次作が書けるのか、ノベルスで売れるのか、というのも問題。北欧モチーフに絞ってどんどん書いていくなら、静かに読者がついていくとは思います。 |
| 編長 | ある時代や民族の文化から道具立てを借りてくる手法は、ファンタジー作品ではよくあること。気になるのは、時として神話なりの「お約束」を無視して、話を運ぶ都合を優先しているように見える点。ここまで神話に寄り添うなら、そのあたりも徹底してほしかった。 |
| 殿下 | 北欧神話はギリシア・ローマ神話と比べて、名前は知られていても実態はよく知られていないモチーフが圧倒的に多い。こちらにある程度の知識があるから読めたが、若い読者層や、まったく素地がない人には読みにくいのではないか。 |
| 広報 | がっしりと骨太の物語。知っているエピソードが出てきたりしてニヤリとさせられる半面、ゼロから創作した物語ではありえないような展開も「だって、神様ですから!」と力技で進んじゃう。下敷きがあるぶん、二次創作のような印象が拭えず、損してますね。 |
| 庭番 | どこか、長い長いプロットを読まされている感じ。それだけ上手いということなんですが。「文章や設定は穴だらけ、ツッコミ放題、だけど一気に読めちゃう」そんな勢いを持つ他の投稿作とは異質で、評価に迷いました。 |
| 番長 | 私は、今年はこれが大賞! と思ったんですが......。格調高く、読んでいて安定感があるし、ヴィーランドを殺すシーンに始まって、見せ所も数々。キャラクターそれぞれの関係、距離などがうまい。 |
| 軍曹 | 最後に残った10本の中でも、完成度が高いと思う。真っ向からハイファンタジーで勝負しましたという作品。他にもモドキの応募作はあったけれど、これが一番。無視するには、レベルが高すぎる。しかし、当人がエンターテイメントを目指すつもりがあるのかどうかが疑問。授賞に十分足るクオリティだが、「C★NOVELS大賞」という賞にふさわしいかどうかは、意見が分かれるところだろう。 |
| 庭番 | 次に、涼原みなと『《赤色棚》考』。赤土の鉢状地に環状棚が段々と連なる世界。水の豊かな下方棚から赴任してきた水導士と、上方棚の水管理者が、謎の文書をめぐって世界を旅するお話。 |
| 生神 | すり鉢状の「棚」という世界設定は、インパクトがあって凄くいいと思った。あらすじや導入部分から引き込まれるものがあってファーストインプレッションが高いし、読後にも、どんな話だったか強く印象に残る。ただ、具体的な部分は意外と想像しにくかったよなぁ。 |
| 女帝 | 読めば読むほど、棚の構造は? 総人口は? 他に国があるの? 棚と棚とで文明が断絶している割に、人と馬で行き来できるってことは意外と狭い世界? と疑問がわいてくる。読者に対して、ちょっと不親切なところがあるかしらね。 |
| 特攻 | 田舎の棚まで役人が来るってことは誰かの統率する行政があるんだろうけど、地方自治なのか、棚全体が国家なのか、経済体系もハッキリしない。あと、降雨量、日照、大気の循環......。 |
| 殿下 | ......いやー、私は細かいことは気にしないたちなので、要するに「逆バベルの塔」か! と(笑)。ビジュアルだけ思い浮かべたら、後はどんどん読み進められた。ディテールをしつこくマニアックに書く方法以外に、下手に説明しないというのも手なのかなと思う。 |
| 娘娘 | すべてが語りつくされないぶん勝手に想像力がはたらいて、「この棚はきっとこんな街」などと疑問が興味にすりかわっていく感じですよね。 |
| 庭番 | 一生を自分の棚で暮らし、最上段が干上がったから潰して下段にゾロゾロ移住するとか、土地に根付いて暮らす人々の様子がうまかった。でも、文章力はちょっと劣るかも? 「バーンと音がしてガーンと落ちてきてピシッと割れる」みたいな、擬音語の多用が気になります。 |
| 編長 | 最下層の人口や、最上層の規模など世界の「大きさ」が掴めないのは気になる。綿密な機構図を描けとは言わないが、矛盾を整理して、世界全体を想像しやすくする説明は必須。でも、オリジナリティのある世界を創りあげて上手に使えているし、いろいろと「ゆるさ」が目につくものの、好感度の高い作品だね。 |
| 軍曹 | 主役の二人は大柄な天然女と、育ちのいいおぼっちゃまな小役人、ツッコミ不在、ボケ同士という感じ。『センチュリオン』の女将軍などに比べてキャラクターとしての魅力は薄いが、こういう二人組が掛け合い漫才しながらの珍道中というのも楽しい。お互いけなしあいつつも相手を理解し合えているお似合いのパートナー、という雰囲気をもっと描きこんでくれたら、さらに良くなったと思う。 |
| 広報 | 今年の「タイトルで損してる」大賞はこれですよ(笑)! 地味な話だろうと思ってたら、どっこい華がありましたからね?。水婿という制度や「よき風を、よき水を」という挨拶、冒頭だけで引き込まれちゃいましたよ。残念なのは、こうした設定が後半どんどん希薄になって、まったく活かされなかったこと。 |
| 殿下 | 最後は新天地にでも旅立つのかと思ったら、この世界にとって一番大事な「あるモノ」が訪れた。「壁の中の世界で、壁を超えることがイニシエーション」というSFにありがちなパターンへ転ばなかったラストに、妙に納得させられた。冒険の果てに達成感を味わえるのは大変すがすがしい。刊行に値すると思います。 |
| 庭番 | 最後に、氷川青『PONTIFEX』。戦時には真っ先に敵地へ乗り込み、優れた土木技術と「歌」の力で橋を架ける、帝国の架橋技師集団ポンティフェックスたちの物語です。 |
| 殿下 | 錬金術というありがちなモチーフを、非常に地味な「架橋」に使って、軍事利用する。面白いけど、要素の寄せ集めと感じる部分もある。 |
| 広報 | いわゆる「土木作業員」を書くというのは、今までにない発想ですよね。ペアを組んで架橋するポンティフェックスたちの、友情パートが非常にいい。うっかりしてる先輩がじつはすごい力を! というのが個人的にはツボでした。序盤、歌が出てきたときは「ええ?、ここでポエムっすか!」とちょっと引きましたけど、後半、読み進むにつれて感情移入して「これもアリか」と思うようになって(笑)。 |
| 生神 | 俺も選評メモに「歌がだるい」と書いてあるな(笑)。設定や人物描写は非常によくできていると思うけど。 |
| 女帝 | 文章にちょっと難ありですが、背骨がちゃんと通っている、知的な物語構成。 |
| 娘娘 | でも一般的な架橋技術も並存するなら、たとえば職工のような人たちはこの世界でどういう扱いなのか? など、書かれていない部分が気になりました。 |
| 庭番 | 個人的な好みで身も蓋もないですが、「魔法より、人海戦術でガッツンガッツン建造するほうがカッコイイじゃん」という不満を、最後まで覆してくれなかったのが残念。でも、主人公たちがオタクっぽく橋への愛を語るくだりは好きです。 |
| 番長 | 時系列がジグザグ、ヒロインのキャラが一定してなくてうまく話に乗れなかった。いっそ、仲間の出会いやライバル同士の鞘当てを書く学生生活篇と、技術の向上と民の生活との乖離を考え悩み、主人公の成長を描く軍隊篇にわけて、二本立てにするとか......? キャラクタのディテールや、日常の様子をべたべた書き込むと映える作品だと思う。 |
| 軍曹 | 「無制限に何でもできる魔法」ではなく「きわめて使用方法が限られた魔法」を書いたファンタジーとしてよくできているが、いかんせん非常に粗い。なぜモチーフが橋なのか、なぜ魔法で架けるのか、架橋以外の専門家もいるのか、どう軍事利用されるのか......書き手は答えを用意してあると思えるのだが。「受賞後の加筆に期待」ということでなら、有望な新人の作品として世に出す価値があるのでは。 |
| 特攻 | 私も、受賞にふさわしいクオリティだと思います。「橋を架けることに特別な意味がある」という世界設定、キャラクターの関係性も心地よく作っていて、余剰の部分が描ききれていないのはもったいない。たくさん詰め込みすぎたがゆえに、言葉足らずになっているのだと思う。書き手が物語の「続き」を用意していることは十分に伝わってくるし、読みたいと思わせる。 |
| 編長 | まず、冒頭の橋を架けるシーンが美しい。此岸と彼岸を結ぶもの、世界を繋ぐもの、として「橋」はファンタジーの世界観と相性がいい。学園生活では少年少女の成長あり、恋愛あり、宗教や戦争を絡めた社会も書けている。でも、最後に出てくる「予想外のもので橋を架ける」設定はとてもいいんだから、七色の階梯を丁寧に描くなど、もっと演出で盛り上げてくれないと。昨年の投稿作は詰め込みすぎの感があった。今作もまだまだパンクしていると言えなくもないが、もりだくさんの物語を、あるターゲットにそってきちんと収斂させることに成功している。ぜひ刊行したい、と思いながら読みました。 |
| 庭番 | というわけで、討議の結果、大賞は『PONTIFEX』、特別賞が『〈赤色棚〉考』に決定いたしました! では最後に、毎回恒例の「大賞選考を振り返って」。 |
| 娘娘 | 応募の封筒、エントリーシートも含めて、誤字脱字が気になりましたね。テキストファイルに抜けがあったり......ちょっとがっかりします。書き上げた後、投函前に、まずは深呼吸を! |
| 広報 | 「あらすじ」を軽視している人が多いのでは? きちんと要約が書ける人は、本編の展開も上手い。選者は、意外と見てますよ。 |
| 軍曹 | タイトルにも、もっともっと工夫を。タイトルは読者とのファースト・コンタクトなのだから! |
| 生神 | 物語の「起・承・転・結」をもっと意識してほしい。ストーリーを展開しながら、すんなりと登場人物や背景を描いてほしい。 |
| 編長 | 総評にも書いたけれど、話が面白くても全体に「一貫したもの」がなければ長篇小説として成立しません。投稿作は年々レベルアップしているので、今後とも力作を期待しています。 |
| 全員 | 第6回C★NOVELS大賞へも、ご応募よろしくお願いいたします! |